ロンドンらしいどんよりとした曇り空に小雨が降りしきる中、私と私の同僚は、電車でゆらゆらと揺られて、ロンドン郊外のヘンドンという場所に行きました。目的は、ある撮影の衣装を借りるため。同僚がすべてをアレンジしてくれたこともあって、私はどんなところに行くのか、全く見当もついていませんでした。

そのレンタル衣装のお店は「エンジェルス」と言って、外観は大きな倉庫のようでした。受付を済ませ、女性の担当の方が我々を案内してくれたのですが、早速、部屋というか倉庫の中に入ってみると・・・「オー・マイ・ガッ! 何だここは!」とびっくりしてしまいました。そこは、文字通り、見渡す限りの衣装の山だったのです。

撮影のためのレンタル衣装のお店なので、もちろん、たくさんの衣装があることを予想はしていたのですが、私の想像を遥かに超える量に、正直、度肝を抜かれました。昔の貴族や庶民、軍隊、甲冑、様々な職業の制服などなど、ありとあらゆる衣装が時代ごとに揃えられていて、そこはもうお店というよりかは博物館のようでした。私と同僚のテンションが「ワオッ!」っと、上がったことは言うまでもありません。

このエンジェルスの歴史は古く、1840年に主にセカンドハンドの古着を扱う洋服店として、劇場の多いコヴェント・ガーデンにオープンしました。場所柄もあり、劇俳優たちが衣装を借りに来ることが多くなってきて、衣装レンタルのビジネスがはじまったそうです。

その後、お店は近くのシャフツブリー・アヴェニューに移り、オーダーメイド(ビスポーク)の衣装制作の部門も加わって、ロンドンのウェスト・エンドの劇産業の中で、レンタル衣装屋として確固たる地位を築いていきました。20世紀に入り、映画産業が活気づいてくると、エンジェルスのレンタル衣装のビジネスも映画産業の方にシフトしていくことになります。そして、そのビジネスは、今日に引き継がれているそうです。

エンジェルスは、 様々な映画に衣装を提供してきました。その中には、とても著名なものも数多く含まれ、「ハムレット(1948)」や「クレオパトラ(1963)」、「ザ・ラスト・エンペラー(1988)」「スター・ウォーズ(1977)」、「「タイタニック(1997)」、「メモリー・オブ・ア・ゲイシャ(2006)」などが含まれています。この他にも数えきれないほどの映画やテレビ番組などに衣装を提供していて、クレジットが載っているそうです。

ヘンドンの大きなお店ができたのは2002年のことで、現在では、ここが衣装レンタルの本部となっています。広さは、約15,000平米もあり、衣装がかかっているハンガーレールの長さは、合計でおよそ13キロメートル! にもなるそうです。まさに圧巻のスケールと言えるでしょう。

ちなみにですが、オリジナルのシャフツブリー・アヴェニューのお店は、現在は、パーティー用のレンタル衣装のお店として、パーティー好きのロンドンっ子に親しまれています。ここは、ロンドンの中心地なので、ロンドン散策の際に、訪れることができます。


Angels The Costumiers(Hendon)
1 Garrick Road London
NW9 6AA
Tel.+44 (0)20 8020 2244
http://www.angels.uk.com/

Angels Fancy Dress(Shaftesbury Avenue)
119 Shaftesbury Avenue London
WC2H 8AE
Tel.+44 (0)20 7836 5678
http://www.fancydress.com


種類も多いが、同じような衣装もたくさん揃えている。とにかくすごい量。


侍の甲冑も発見!


服のみならず、アクセサリー類もすごい量。


オーダーメイド(ビスポーク)部門では、顧客の要望に合わせて、デザインやパターンから衣装を制作している。


帽子を制作しているところ。