- 2013.05.01
株式会社ピクトリコ清藤禎樹
高品質のインクジェットペーパーを販売しているピクトリコ。
デジタル画像が増える中、
用紙メーカーとして、今後どのように力を注いでいくのか、
取締役の清藤禎樹さんに聞いた。
株式会社ピクトリコが設立されたのは1998年です。これまでの流れを教えて下さい。
元々は旭硝子株式会社の一事業としてスタートしたのがきっかけです。インクジェットプリンタで打てる透明フィルム、いわゆるOHP用のフィルムとして、製造・販売していました。
当時はインクジェット用の溶剤をフィルムにしか塗っていませんでした。しばらく透明フィルム用だけを製造していたのですが、ある時、「写真用として作ってみようよ」ということになり、初めて世に出したのが「ホワイトフィルム」です。フィルムベースを白く塗ったものですね。これは今も販売しています。実質的には、これが写真用品としてのスタートになります。
その後、紙をベースにしたものに溶剤を塗ってみたり、写真用のRC(レジンコート)に塗ってみたり...。順次製品を開発して今に繋がっている、という状況です。
そういう意味では、映像の世界へ入ってきたのは、株式会社ピクトリコとして独立してからですね。もう13年経ちます。
この間、一貫してこだわってきたのは「高品質」ということです。一般的な用紙メーカーが狙うボリュームゾーンのための製品開発というのはやっていないですね。ハイエンドのプリント用紙を求めるプロやハイアマチュアの要望に応えられる製品を作ろう、というのがコンセプトですから、ターゲットになる顧客のゾーンはあまり広くないかも知れません。
その分、クオリティの高いブランドとして認知されてきていると思います。
おかげさまで、「ピクトリコ=ハイクオリティ」というのが定着してきた気がします。お客様も、安心して製品を使って頂いているのではないでしょうか。そのこだわりは、今後も維持していかなくてはならないと思っています。
全ての面で他紙よりも一歩先を目指しているため、どうしても他社よりもコスト的には少し高くなってしまう傾向があります。そこにはジレンマもあり、どこまでこだわるのか、コストとパフォーマンスのバランスも重要です。
車で言うと、高級車から低価格車(と言っても日本車よりも高いですが)までラインアップを出しているベンツがいいのか、低価格車は作らないフェラーリがいいのか、それは企業の考え方によりますよね。現状、弊社が目指しているのはフェラーリです。ただベンツは上級グレード用に開発した技術を下位グレードにフィードバックするなど、やはりベンツとしてのクオリティや存在感はどの車種にもありますよね。
弊社も売上げを増やしたいとか、顧客の層を広げたいという思いもあるので、そうすると、もう少し製品のラインナップを増やしていくことも検討する時期に来ているのかな、という気もしています。あくまでも製品の質として、「業界でナンバーワンを目指す」ということを前提としての話ですが。
昨年からは「作品を提供する」ということも我々がお手伝いする形でやっていこうということで、「プリント工房」というサービスを始めました。
一般的には用紙を買って頂いた後、ご自分で出力されるわけですが、せっかくピクトリコ製品を買って頂いているなら、「作品出力までこちらでやりましょう」ということで、プリント出力までを請け負います。
まだまだプロフォトグラファーまでは浸透していないのですが、逆にハイアマチュアの方からは「自分でプリントすると色が上手く出ない」という声もあり、こちらに依頼されるケースが増えています。最近ではプロの方から「写真展をするのだけど、時間がないのでまとめて出力してくれないか」というオーダーも少しずつ増えてきました。
- ピクトリコプルーフグロスDCP3
- ピクトリコプロ・セミグロスペーパー.
- ピクトロコプロ・フォトペーパー
販売している紙の特徴を熟知したスタッフが出力されるなら、安心して依頼できます。
そうですね。単純に預かったデータを右から左へ出力するわけではなく、打ち合わせをしながら出力をするので、「作品を一緒に仕上げる」というスタンスです。どんな紙に出力するのがいいのかも、ご本人と打ち合わせをしながら決めていきますし、色に関しても途中で色のトーンを見て頂きながら仕上げていきます。
コミュニケーションを取りながら作業を進めていくので、一度ご利用頂いた方からのリピート率は高いですね。
自分でプリントするよりも、いいものに仕上がると嬉しいですね。
フィルムの時代は、撮影した後は街のミニラボや写真屋さんまかせでした。しかしデジタルカメラになって、出力の部分は自分の責任において自分でやらなければならない時代になりました。そうなると、カラーマネージメントやレタッチ、データの作り方、出力の仕方など、いわゆる「入り口から出口まで」、すべて勉強しなければなりません。
銀塩の世界でプロフェッショナル・プリンターが存在したように、本来フォトグラファーは、写真を撮ることに集中すべきであって、他の部分はまかせてもいいのではないか、と思うのです。その部分でできることは弊社でお受けしましょう、というのがコンセプトです。
今後も作品を出力するというビジネスは広げていきたい。そのための提案の仕方や告知については、もっともっとしていかなければと思っています。
東日本大震災で、多くの写真やアルバムが水に浸かったり流されました。写真の修復も話題になりました。
一方、電子機器は電気がなければ見られません。改めて紙で残しておくことの大切さを認識しています。
「クラウドだと便利だし、ネットサービスに画像を預けておけばいいじゃないか」、という方もいらっしゃいます。ただクラウドに入れたご本人に何かあった場合、その画像そのものが取り出せない、あるいは存在しなかったものになる可能性もあります。そういった点でも、出力した「紙」として持っておくことの意味はあると思いますし、今回の震災で改めてその重要性を感じています。
「画像データを残す」というのは「形として残す」のとは違いますよね。データは「情報」として残っているわけで、それを目で見えるものにすることで、人の感情を揺さぶったり、癒したりという、何らかの意味が出てくるのではないでしょうか。
話は少し飛びますが、先日印刷学会で講義をしました。そこで話したことは「良い作品を見ようよ」ということなんです。今やネットを含めて写真というか、画像は過去のどの時代よりも氾濫しています。逆に、本当に良い作品が埋もれたり、混ざってしまっている。
写真はシャッターを押せば誰でも撮れます。フリッカーやブログ、フェイスブックにも画像は無数にアップされています。そんな中、おそらくプロが撮る写真と一般の人が撮る写真のどこがどう違うのか、わからない人が増えていると思います。それは本当の良い写真を見たことがないからなんです。でもそこがわからないと、プロが作る芸術作品としての価値も薄れていってしまう。
画像がネットにたくさん氾濫するようになって、写真を見る力が弱くなっている気がします。
少し懸念するのが、プロの撮った写真と一般の人が撮った写真の差がなくなってきている、もしくは近付いてきている、ということです。
アート写真の分野でも、プロの撮った良い作品を、お金を出して購入するよりも、自分が撮ったものを出力して飾ればいいじゃない、ということになります。それがダメなわけではなく、両方を混同されてしまうことが心配なんです。
海外では、銀塩のヴィンテージプリントが高い値段で取引きされていますが、ではこれから先、後世に残るような作品が出てくるのかどうか...、すごく不安です。写真に関わるメーカーとして、「本当に良い作品」をもっとみんなに紹介できる機会を作っていきたいです。
タブレットやモニタで作品を見せられるよりも、プリントされたブックの方が落ち着いて見られます。
パソコンのモニタやiPadでは画像データを見ているのであって、作品というのは「プリントされて作品になる」ものです。撮影の技術や感性とは別に、プリントの技術、銀塩で言えば暗室作業、デジタルで言えばレタッチや出力も作品のプレミアムに入る部分ですからね。
良い作品を作るという流れで言うと、ザ・プリンツの久保元幸さんがプラチナプリントを含めたプリント教室を始められるというので、弊社でも協力させていただこうと思っています。
元々久保さんは銀塩のプロフェッショナル・プリンターです。そういう銀塩プリントの技術も残していくべきだし、「アート写真の世界」と捉えると、その一つの手法としてインクジェットプリントもあるべきだと思います。
今やプリンタは個人に広く普及していて、誰にでも使えるものですよね。特別なインクが使える、という世界でもないですし。そういう意味でインクジェットプリントの世界で、唯一プレミアムというか、人との差別化を計れるとしたら「紙選び」だけなんです。
インクジェットプリンタメーカーは主に3社だけですが、用紙に関しては、弊社以外にも世界中にいい紙を作られているメーカーはたくさんあります。ここ数年、インクジェットペーパーの市場は大きくなっていますし、海外の紙も入ってきています。
- 月光 ブルー・ラベル
- 月光 レッド・ラベル
- 月光 ブラック・ラベル
紙選びは作品制作の重要なアイテムになると。
純正品だけではなく、色々なメーカーの紙を試してほしいです。それだけで世界は変わります。その選択肢の一つとしてピクトリコの紙を使って頂ければ嬉しいですね。
将来的にコマーシャルの分野は、デジタルサイネージ化でかなりの部分がムービーに取って変わる可能性があります。もしかしたら、写真がなくなるかもしれません。出版は印刷物として残るとは思いますが、写真が生き残れるのは、最終的には美術作品としての価値しかないような気もしています。
弊社としても、写真文化、紙の文化として、後世に残していけるような作品制作のお手伝いをしていければと考えています。
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