- 2011.12.05
PhotographerMICHAEL THOMPSON
数多くのファッション誌のカバーを手がけ、
ハリウッドスターからも信頼される写真家、マイケル・トンプソンさん。
写真家としての原点から、
独立して20周年という節目に発表された
写真集、アート作品、エキシビションについて話を聞いた。
トンプソンさんの写真家としての原点を教えてください。
- ▲MICHAEL THOMPSON氏。
ワシントン州の小さな町で、父が写真館を営んでいたんだ。8歳くらいのころから毎日のように、学校帰りに写真館に寄っては、父と暗室でパスポートの写真を現像していたよ。その頃から写真というものに興味があったんだ。でも17歳のときに父が亡くなってしまい、写真館を継ぐにはあまりにも若く、経験が乏しかったから、カリフォルニア州の写真の専門学校で写真を学ぶことにしたんだ。
学生のときは、自分がどんな写真を撮りたいのかまだわかっていなかったので、さまざまなコースをとってはいろんな写真を勉強したよ。でもあるとき、インターンシップの講習でロサンゼルスにあるファッションカタログなどを撮影しているフォトグラファーのアシスタントをすることになって、そこでファッションフォトの面白さを知ったんだ。
大学卒業後は、NYでアーヴィング・ペン氏のアシスタントをされていましたよね。
どういったきっかけでアシスタントになったのでしょうか。
彼のアシスタントになれたのは、非常にラッキーだった。学校を卒業後、写真家になろうと思って、僕はNYに移り住むことにした。トラックに自分の荷物を全部載せて、ロサンゼルスからNYまでひたすら運転したよ。それから、リチャード・アヴェドン、ヒロ、アーヴィング・ペン...と、当時ファッション誌で活躍していた写真家のスタジオをいきなり訪ねては、「アシスタントにしてください!」ってお願いしてまわったんだ。そのとき、たまたまペン氏がファースト・アシスタントを探している時期で、面接をしてもらえることになったんだよ。面接後、雇ってくれるって電話がかかってきたときはとても嬉しかったね。NYに着いてまだ2週間も経っていなかったから、本当にラッキーだったと思うよ。
アーヴィング・ペン氏から学んだことは何でしょうか。
ペン氏は「これを学べ」とか「これを覚えろ」とは絶対に言わない。彼の撮影を見て感じ取るしかなかった。彼から学んだことをひとつ挙げるとしたら、思いついたアイディアを写真として具現化するまでとことん追究する精神。彼は納得する写真が撮れるまでひたすら撮り続けていたよ。
トンプソンさんというとファッションフォトのイメージが強いですが、ご自身にとってのファッションフォトとは何でしょうか。
僕にとってのファッションというのは、どちらかというと被写体が着る「コスチューム」という感覚で捉えていて、僕自身もあまりファッションに凝るタイプではないんだ。ファッションが好きというより、被写体をより美しく見せてくれる装飾のひとつと捉えている。
でもポートレイトを撮るときとは違う感覚で撮られているんですよね。
- ▲写真集 『PORTRAITS』
違う場合もあるし、同じ場合もある。たとえば、セレブリティの撮影の場合はファッション誌での撮影が多いので、彼ら自身の魅力を見せるポートレイトではあるのだけれど、ファッションの要素が入ってきたりもするよね。
僕は別にポートレイトの写真家になりたいわけではないんだけど、多くのファッション誌のカバーを撮影していると、セレブリティを撮る機会が多いから、結果として写真集『PORTRAITS』ができたっていうわけさ。
『PORTRAITS』と同日に発売された、アート作品『RED NUDE』を撮られたのはどうしてですか。
- ▲アート作品『RED NUDE』
1993年に、ある企画で女性の身体を青の塗料で塗って撮影をした。その写真に「Blue Torso」と名づけたんだけど、人間の身体が抽象的なオブジェのようになることにとても驚いたよ。その魅力に惹かれ、いつかまた撮りたいとずっと思っていた。
今回は青ではなく、力強さや大胆さをイメージする赤の塗料を使って、ひとりのモデルと向き合う1日だけのフォトセッションを行なったんだ。
肉体ではあるけれど、スティルライフ的な感覚も持っているということでしょうか。
身体が静物的に見えるのと同時に、クレイ・アニメーションのようだった。人間なのでシャッターを押すごとに身体が少しずつ動く。1コマ1コマ形が変わる静物画のような...。変わった感覚だったよ。すごく抽象的なものに感じたね。
『RED NUDE』は手に持って見るにはずいぶん大きなサイズですね。
- ▲本体サイズ:W380xH510xD15mm
離れた位置で見てほしかったから、わざと大判にしたんだ。『PORTRAITS』みたいなB4判くらいのサイズだと、写真と目の距離が近すぎて見えすぎてしまうから。目と写真の距離を離すことで、細かい部分に目を向けさせずに写真全体を見てもらうことができる。より抽象的に捉えてもらうことができるようにしたかったんだ。 『RED NUDE』はわざと首から上を見せないようにしている。こうすることで、人の身体であることを意識させずに、抽象的なオブジェとして見てもらうことができると考えたんだよ。
トンプソンさんにとって、『PORTRAITS』と『RED NUDE』はどんな位置づけなのでしょうか。
『RED NUDE』は本という形になってはいるけど、自分にとってはエキシビションという位置づけで考えている。100冊限定で発売しているもので、非常に限られた人たちのためのアート作品として捉えている。逆に『PORTRAITS』は、たくさんの人たちに見てもらうために作ったものなんだ。
面白いことに、『RED NUDE』は1日で撮った写真の中から編集して作り上げたもので、『PORTRAITS』は20年間の仕事の写真から編集して作り上げたものなんだよ。
今回の来日にあたり、アスリートである北島康介氏との作品を発表されましたが、北島氏とフォトセッションを行なうことになったきっかけを教えてください。
『PORTRAITS』と『RED NUDE』の発売にあわせて来日する予定だったんだけど、残念なことに日本で起きた3月の震災の影響で延期になってしまった。僕にできることを考え、写真集の売り上げの一部を義援金として寄付させてもらったのだけれど、康介が被災地の子どもたちのために水泳教室を開いていることを知って、「彼と一緒に何かできないかな」って考えたんだ。
康介は日本を代表するトップ・アスリートであり、毎日4時間も泳いで鍛え上げた美しい身体を持っている。『RED NUDE』のコンセプトと『PORTRAITS』の「セレブリティを撮る」というコンセプトを合わせた新しいプロジェクトとして、彼とのフォトセッションを行なうことになったんだ。
北島氏とのフォトセッションはどうでしたか。
康介はモデルではないので、身体にペインティングをしてカメラの前でポーズをとることに抵抗がないか心配だった。実際、スタジオに入ってきた康介は緊張しているように見えたしね。でも撮影を始めてみると、徐々に康介の緊張がほぐれ、最後には身体を塗られるのが楽しいなんていってたね(笑)。『RED NUDE』の女性モデルとはまた異なる、とても素晴らしい写真が撮れたよ。
「AOYAMA Francfranc」に展示された大判プリントは、お店に一歩足を踏み入れると誰もが目を留める迫力があります。
写真を見る人たちにどんなことを感じてもらいたいと思っていますか。
- ▲会場の掲出風景
本と同じで、この写真から受ける抽象的なイメージをさらに高めたいと思い、2階の天井から床が隠れてしまうくらいの大判サイズにしたんだ。お店の大きさから考えると、本当はもっと大きなサイズにしたかったんだけど、お店に迷惑がかかってしまうからできなかったんだよ(笑)。
もし展示会をするのであれば、真っ白な空間の中でとてつもなく大きなサイズのプリントを展示したいね。
ところで、仕事でも作品でもライティングは事前に決めて組まれているのでしょうか。
それとも被写体と会ってから決めているのでしょうか。
『PORTRAITS』を見てもらうと、さまざまなライティングで撮影していることがわかってもらえると思う。僕の場合は、撮影前に大体のライティングイメージを用意しておき、後で変更してもいいように、変えられる余地を残すようにしているんだ。外での撮影で太陽が沈んでしまうことだって、スタジオでの撮影でライトが被写体に合わないことだってあるからね。だから、スタジオでは多様なライティングを用意するようにしている。 僕の考えるライティングは「写真の雰囲気を作り上げる」ためのものなので、実際の現場で求める雰囲気が表現できているかどうか、確認しながら仕上げていくんだ。
メインで使われているカメラやフィルムはありますか。
いまはほとんどデジタルカメラを使っているよ。ファッション業界はスピードを求めているからね。メインカメラというのは特にないな。シチュエーションによってカメラを変えている。外の撮影には暗いシチュエーションでも高画質なキヤノンのカメラを使い、スタジオ撮影にはハッセルブラッドを使っているよ。
現在はオレゴン在住と聞きましたが、実際の仕事場とは離れた場所に住んでいるのはなぜでしょうか。
- Photo:Yoshitsugu Enomoto
Text:Noriko Fukuda
僕の故郷がワシントン州で、妻の故郷がカリフォルニア州なんだけど、オレゴン州はワシントンとカリフォルニアの中間にあるんだ。ニューヨークに26年ほど住んでいたので、そろそろのんびりとした暮らしがしたいと思って、僕たちの故郷の近くに移り住むことにした。
NYに住んでいたころのような働き方はできないけど、写真の仕事は大好きだから、いまは仕事を選ばせてもらっているんだ。オレゴンにいるときは興味のあるプロジェクトに着手し、写真の仕事があるときはNYやロサンゼルスなど、呼ばれた場所に行く。こうやって日本にも飛んで来たよ(笑)。
写真から離れた場所で頭をリセットすると、よりよい形で写真に集中することができる。いまはとてもバランスがとれた生活ができている。NYから電話がかかってくると、「いま薪を割っているから忙しいんだ!」なんて冗談をいって相手を笑わせてあげてるよ(笑)。あと、オレゴンの自宅に暗室も作った。父から教えてもらった暗室作業をしたくてね。
写真家としての今後の展望を教えてください。
僕はどちらかというと未来のことは計画しないタイプ。目の前のものに集中しているので、先の事はあまり考えない。先々まで計画してしまうと面白くないからね(笑)。どんなプロジェクトでも終わるときがあるので、今回の康介とのエキシビションも嬉しくもあり、ちょっぴり寂しくもある。子どもを育てることに似ているよね。最中は大変だけど、手が離れてしまうとなんだか寂しい...。仕事ってその繰り返しなんだと思う。だからこそ、先のことは楽しみにとっておきたいんだよ。
- ■ エキシビション「MICHAEL THOMPSON × KOSUKE KITAJIMA」
- 期間:2011年11月16日〜12月25日
- 場所:AOYAMA Francfranc 東京都港区南青山3-11-13
- 時間:11:00〜22:00(営業時間に準ずる) 入場無料
- http://www.francfranc.com/jp/news/2011/11/michael_kitajima/
- ■ アート作品『RED NUDE』
- 全身を真っ赤に染め上げた女性を抽象的に撮影。「1人のモデルと1日だけのフォトセッション」として、数多くの写真が撮影され、その中から厳選された22点が収められている。大判サイズの真っ赤な装丁は、すべて職人による手仕事で、氏のサインとエディション・ナンバーが刻まれている。世界限定100セットのうち、70セットを日本限定で発売中。
- 発売:2011年4月1日
- 価格:200,000円(税込)
- http://www.mt-rednude.com/
- ■ 写真集『PORTRAITS』
- ポップカルチャーを牽引する女優や俳優、ミュージシャン、モデルなど、世界のセレブリティ68人が登場。トンプソン氏が撮影した『VOGUE』『W』『allure』『GQ』『Harper's BAZAAR』『Vainty Fair』などのファッション誌から、自身が選りすぐった作品群は圧巻。20年にも及ぶトップ・フォトグラファーとしてのキャリアが凝縮された1冊。
- 発売:2011年4月1日
- 価格:7,350円(税込)
- http://www.mt-portraits.com
MICHAEL THOMPSON Photographer
1962年、アメリカ・ワシントン州生まれ。町の写真館を営んでいた父親の影響で幼少期から写真に興味を抱き、ブルックス写真大学で写真を学ぶ。卒業後、ニューヨークに移り、アーヴィング・ペン氏に師事。『allure』誌の創刊号(1991年)の仕事に抜擢されたことをきっかけに独立。多くの雑誌でファッション、ビューティの撮影を手がけ、TVコマーシャルの分野でも活躍中。『VOGUE』『W』『Harper's BAZAAR』『Interview』『Vanity Fair』など、数々のファッション誌のカバーを手がける、写真界をリードするトップ・フォトグラファー。現在、妻と2人の子どもとともにオレゴンに在住。
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- 2014.02.05Event 『INFINITY VS. ~僕らとたった一人のモナ~』展
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- 2014.01.09Photographer 蓮井幹生
- 2013.12.03photographer 栗林成城
- 2013.11.15Photographer 八木 規仁
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- 2013.08.05Photographer 伊藤 之一
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