- 2013.08.30
Photographer伊藤 之一
前頁に続き、背景に写真パネルを配置した商品撮影をもうひとつ見せてもらった。
今度は容器の中のクリームに注目しながら、ライティングでシズル感を演出していく。
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左:細長いアクリル台に商品を乗せてカメラでアングルを決めながら、A3サイズに出力した写真をパネルに貼り商品の背後に設置。その上で、写真パネルの裏から針金を通し、グルーガンで商品と針金を固定する。これは前回と同じ作業だ。
右:アクリル台を外すとこんな感じ。今回はハイアングルからクリームの表面を狙う。レンズはシュナイダーの80mmに接写リング。商品に寄って撮ることを前提にしている。
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左:商品の両サイドにも背景の色味を写り込ませるために、背景だけでなく、左右にも写真パネルを配置していく。
右:クリームを慎重にかき混ぜる伊藤さん。気に入った形状になるまで、何度でもかき混ぜる。普段はスタイリストが行う作業だが、このように伊藤さんが行う場合もある。
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左:商品の配置やカメラアングルが定まったら、本格的にライティングを組み立てていく。まず商品のフロント部分に対して、手前からバンドアー付きモノブロックストロボを2灯。そして、商品上部にハイライトを入れ、クリームのシズル感を演出する目的で、少し後ろのトップから同じくバンドアー付きモノブロックストロボを2灯照射する。計4灯での構成だ。いずれもユポ(紙厚の合成紙)を貼った枠越しから光を透過し、光質をやわらかくしている。「今回の被写体は、写り込みが大きいです。ユポは紙の目が出にくく、商品に対して繊細なトーンでやわらかい光がつくりやすいのが特徴です。アクリル板では光が均等に出すぎてしまいますし、トレペでは紙の目が写り込みます。物撮りでは、ユポやアートレ(アートトレーシングペーパー)は、フラッグの枠に丁寧に貼って何枚か持っておくと、さまざまな場面で活用できて何かと重宝します」
右:後ろからの眺めはこんな感じ。ライトの位置や角度は、商品への光の反映の仕方を確認しながら、その都度、微調整する。「私の場合、今回のように物撮りではモデリングランプで商品への光の当たり方を確認することが多いです。そういった意味では、利用する照明機材はこのモデリングランプの精度も重要な要素になってきます」
- 撮影時はフロントからの光を体で防がないように、リモートコントロールを使う。
1灯ずつの役割を見ていくとこのようなライティングになる。右後方のライトによる容器へのハイライトが大きなアクセントになっている。左後方のライトは、背景の明るさにトーンを加える役割も果たしている。
- 最終的に伊藤さんのほうで色味や明るさ、コントラストを調整したものが上の写真だ。表面のクリームや背景に、よりニュアンスが加えられ、全体的に立体感やシズル感が演出、強調されている。前回同様、ここからレタッチャーにレタッチを依頼し写真は完成する(冒頭の一枚)。撮影データはISO50、シャッタースピード1/100秒、撮り目はF12。ライトバランスは左前方と右奥のライトがF13、右前方と左奥のライトがF10になっている。
撮影が完了したら、今度はレタッチャーにレタッチを依頼する。
今回の撮影で撮りおろした2作品について、レタッチの現場を覗いてみよう。
今回伊藤さんがレタッチの依頼をしたのが、レタッチャーの薄井康憲さん。これまでにも、商業写真だけでなく個人制作の写真も含めて、数多くの伊藤さんの作品をレタッチしてきたレタッチャーだ。「薄井さんがいないと仕事が成立しない(笑)」と伊藤さんが語るほど信頼は厚い。
「私が8bitで現像しても、薄井さんは16bitに戻して細かいところまでこだわってレタッチしてくれます。そういう具体的なケアみたいなものをしっかりやってくれるのが有り難いですね。レタッチでどれだけ手を加えても、"写真の仕上がり"がきちんと残っているんです。それから薄井さんは以前、製版会社にいらっしゃったこともあって、写真を印刷に載せることに関しても熟知しています。私にとって中判デジタルは印刷用のカメラという認識なので、そういった意味でも、薄井さんのような存在は、私にとって非常に貴重だと思っています」(伊藤)
レタッチャーへの写真の引き渡しは、ある程度方向づけした写真をTIFFにして渡すことが多いという伊藤さん。今回もすでにご覧いただいたように、伊藤さんのほうで現像し調子をつけたものをTIFFにして薄井さんへ渡している。その上で、レタッチしてほしい内容を伝えていく。
「HAKUの写真に関しては、ライトが万遍なく当たっているというよりも、メリハリをつけながら表現しているので、部分的なハイライトを大切にしたレタッチをお願いしました。商品の下に入ったラベルも消してもらっています。ELIXIR SUPERIEURの写真に関しては、シズルをより目立つように全体を盛り上げてほしいという指示を入れさせてもらいました。具体的には容器の両サイドにフレアを足してもらったり、シズルのハイライト部分をちょっと強調してもらったりしています」(伊藤)
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左:レタッチャーの薄井さんと打ち合わせをする伊藤さん。商品の特性なども軽く説明しながらイメージを膨らませてもらう。
右:写真データと合わせて、具体的なレタッチ箇所を記した出力プリントも一緒に渡す。
普段はCDジャケットなど音楽系の仕事も多いという薄井さん。近年、中判デジタルで撮られた写真をレタッチすることも増えたと言う。レタッチャーから見た中判デジタルの魅力とはなんだろうか。
「やはり圧倒的に情報量が違いますね。例えば、黒い写真に対してもトーンジャンプなどを気にせずレタッチできます。階調も非常に美しい。レタッチで表現できる幅が広いのは事実だと思います。16bitでの作業も行いやすいです。一方で、細部にまで気をつけないといけないという部分はあります。見えすぎてしまうので、ちょっと甘く見えるような部分に対しても見過ごせません。細かい部分にまで気をつけなくてはいけない分、データ破綻はおきづらいといった感じでしょうか」(薄井)
一方で、元データの重要性に関しては大きな違いがないとも。
「レタッチする上で、元画像がとても重要だということに関しては、中判デジタルであろうとなかろうと関係はありません。光の向きが合っていない写真同士を合成するのは、仮にそれが中判デジタルで撮った写真であっても、自然な仕上がりにレタッチすることは難しいです。例えば、伊藤さんのように撮影された時点でレタッチする場所がほとんど見当たらないと思うほど(笑)完成度が高い元画像であれば、そこからのレタッチは非常にスムーズですし、中判デジタルの個性を引き出しながら、より自然に仕上げられます。中判デジタルは情報量が多いから何でもできるという見方は、確かにそういう部分はあるものの、ちょっと乱暴な見方かもしれませんね」(薄井)
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左:タブレットでレタッチを行う薄井さん。
右:重要な部分に関しては、作業は伊藤さんと確認をしながら進められる。このように、伊藤さんはレタッチに立ち会うことが多い。
- すでにワークフローの中でお見せしている写真だが、改めて2枚並べてみる。レタッチ後の写真のほうが、全体的にメリハリのあるに写真に仕上がっていることがわかる。具体的には空のコントラストが上がり、商品のハイライトとシャドー部分もよりはっきりと描写されている。底部のラベルもきれいに消えている。
- 2枚目の写真も並べてみよう。こちらは細部に重要なレタッチが加えられている。例えば容器へのそれだ。両サイドにフレアが入り、また正面上のハイライト、正面下の黒いラインがより強調されている。この結果、商品全体が締った仕上がりになっている。クリームもハイライトがはっきりと入っていてメリハリが演出され、やわらかい質感の中で、商品がしっかりとその存在感を主張している。一枚の写真はこのように撮影からレタッチまでの吟味された一連の作業を通じて、はじめて理想的な一枚へと完成していく。
伊藤 之一 Photographer
1966年名古屋生まれ。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、博報堂フォトクリエイティブ(現、博報堂プロダクツ)にフォトグラファーとして入社。2000年伊藤写真事務所設立。広告写真制作を主軸に自主制作の作品も発表を続けている。主な写真集に「入り口」「テツオ」「電車カメラ」「雨が、アスファルト」「ハレ」「凸」(共にWALL)高岡一弥氏、高橋睦朗氏との共著「百人一首」(PIE BOOKS)などがある。写真展も数多く行っている。
http://www.itoyukikazu.com
薄井 康憲 Photo Creator
1978年広島県生まれ。愛知大学工学部中退。バンタンデザイン研究所フォトグラフィ科卒業後、博報堂フォトクリエイティブ(現、博報堂プロダクツ)にアシスタントフォトグラファーとして勤務。退社後、製版会社を経て画像処理の道へ。GATE、太陽スタジオを経て2010年独立。
http://www.usuiworks.com
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